2021-10-26

市中の山居より 第12回

ドーパミンよ、こんにちは

「花よ、あなたは美しい!」と歌えば、病も癒える。

中国最古の詩集『詩経』の中の言葉です。黙読ではなく、朗読でもなく、歌ったーー『詩経』は歌う詩です。『詩経』には「ほめる詩」と「そしる詩」があります。「ほめる詩」は、世の中に勢いがある時に、「そしる詩」は、危機衰退に向かっているときに書かれています。

 『詩経』より千数百年後の7~8世紀末に成立した日本最古の詩集『万葉集』にも同じ傾向がみられます。古代的な共同体組織が崩れてゆくと、民衆のエネルギーが噴き出て、歴史の表に出てきます。そして民謡(民の歌)が生まれました。

『詩経』に「賦(ふ)」という表現法があります。「ほめたたえる」表現法です。美しい花を見て、秋の山の色どりを見て「あぁ、きれい!」と感嘆の声をあげる。これが「賦」です。ほめたたえることで、花や山の生命力を共有する。つまり自然の生命力を自分自身のうちへ取り入れ、その結果、自分の気持ちが良くなる。自分自身と自然が交換し、力が湧き、命が救われる、というわけです。

見たもの、触れたものを「あぁ、いいなぁ」「美しい」と声を出すことで、病が回復に向かうこともあります。霊的に交換し合う、と言ってもよいでしょう。よい香り、美しい鳥の啼き声に感動する。その感動が内なる生命力を呼び起こし、霊的交換が行われるということのようです。

 「ほめる」と、いつしか良い気持ちになる――この変化は、現代の言葉で言えば、快楽物質・ドーパミンの働きによるものでしょう。おいしい食事を摂ると、自然に幸せな気分になったり好きな人と話しているとき、たいした話ではなくてもいい気分になったり、パンダを見ていると自然に顔がほころび笑ってしまったり・・・・・みんなドーパミンのなせる技です。

脳生理学的に言えば、脳が勝手に快楽を感じ、ドーパミンを出し、それを意識が覚えてゆくというプロセスではなく、かつて体験したことを脳が記憶し、蓄積していて、瞬時に反応するのだそうです。不快なこと、辛いこと、悲しいことばかり口にしていると、ドーパミンは決して出てくれません。幸せは近づいてはくれません。

 嫌なことがあった日、おいしいお茶を飲む。するといつの間にか、いい気分になってゆく。脳に蓄積されている「あなたの良い思い出」が出てきて、ドーパミンを出してくれるのです。笑う人には福がある!本当なのです。

(佐野典代)

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