中国・福建省北部に、地殻変動で隆起した36峰99岩がにょきにょき連なる山々があります。これを武夷山と言い、1999年に世界自然文化遺産に認定されました。これら奇峰奇岩に深く根を張り、太古の岩のミネラル(微量元素)と水、霧、風、太陽の光と様々な動植物と共生し成育する茶樹の葉でつくるウーロン茶、それが岩茶です。
渓辺奇茗天下に冠たり 武夷の仙人古より栽う
宋代の詩人・范仲淹は、武夷山の自然をそんなふうに詠んでいます。
「険しい岩や谷に、天下に名を轟かせている名茶がある。こんなところに生えている茶は、昔々、武夷の仙人が栽えたとしか思えない。人間業ではないね」
武夷山は、武と夷という兄弟仙人が拓いた神仙郷です。唐代、武夷山のお茶は皇帝・皇妃の病を治したありがたいお茶として、皇帝専用のお茶でした。ウーロン茶が作られたのは明代(14世紀)からで、岩茶ならではの複雑な味と香りの戦いは、この時代から始まりました。
岩茶の複雑な味と香りは、苦味のカフェイン、甘味、酸味、旨味のテアニン、渋味のカテキン等、お茶の基本的成分のほか、太古の岩を形成している成分、カルシウム・ナトリウム・カリウム・マグネシウム・亜鉛・鉄・銅・リン等など、人の体に必要な様々なミネラルが作り出しているものです。それは「岩韵」といいます。
「岩韵」は岩茶だけにある味と香りで、岩茶の命、人体に有効に働く貴重な成分なのです。「岩韵」がなければ、「岩茶」とは認めない、厳しい国家規定があります。国家規定に合格した岩茶を「正岩茶」と言い、岩茶房は1988年の創業以来「正岩茶」だけを扱う老舗です。
岩茶房の岩茶
中国国家級非物質文化遺産伝承人(日本でいう人間国宝的存在)の茶師・劉宝順さんの岩茶をお出ししています。岩茶房創設者で主宰者の佐野典代(左能を改姓)が30年以上前に、まだ無名の、一人の茶師に過ぎなかった劉さんと出会って以来、こんにちまで岩茶房は一途に、彼の岩茶だけを扱ってきました。彼も、岩茶房の信頼に応え続けてくれています。
彼の製茶姿勢は「重味求香」。つくられたお茶が合格か否かは岩茶房のお客様が決める、と言う訳で、つくる人も、飲む人も厳しいのが「正岩茶」の”正岩茶たるところ”です。この厳しい試験に合格したお茶を飲むと、酔うのです(これを「茶酔」といいます)。
中国一の名茶師の地位にいる劉宝順作の岩茶を求める中国人は大勢いますが、彼は岩茶房の岩茶だけを作り続けている誠実な人です。彼の岩茶を最初に購入し、彼と共に歩んできた岩茶房への思いが、彼の中にあるからだろうと思います。
岩茶房は、岩茶愛好者の方々と一緒に、毎年夏の終わりから秋のはじめに武夷山を訪問し、劉さんと交流し、出来立ての岩茶をいただく旅行を創業以来、続けています。岩茶房と岩茶愛好者は、劉宝順さんとの「信」を大切にしているからです。